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札幌地方裁判所 平成10年(ワ)5159号 判決 1999年12月02日

原告

小川剛

被告

光星ハイヤー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、五二五四万二〇六六円及びこれに対する平成七年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し、一億〇一四二万六一一四円及びこれに対する平成七年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告佐藤の運転する被告会社所有の車両にはねられて傷害を負ったとして、被告ら各自に対し、その損害の賠償を求めている事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  原告は、平成七年一一月二三日午前〇時三分ころ、札幌市中央区北二〇条西一五丁目六番地付近の交差点を横断歩行中のところ、被告佐藤の運転する普通乗用自動車にはねられた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故の結果、原告は両視神経管骨折、両視神経萎縮、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、頭蓋骨骨折、内径動脈海面静脈洞瘻、左肩鎖関節脱臼、骨盤骨折等の傷害を負った。

3  原告は、本件事故による傷害のため、平成七年一一月二三日から平成八年二月二九日までの九九日間入院し、同年三月一日から平成一〇年七月一三日まで通院治療した(実通院日数は八一日)。

4  被告会社は、被告佐藤の運転していた加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

被告佐藤は、加害車両を運転中、前方注視義務を怠った過失により、本件事故を惹起させたから、不法行為に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

5  原告は、本件事故により、治療費として七六万六一九二円、入院諸雑費として一三万八六〇〇円(入院期間九九日で一日当たり一四〇〇円)、通院交通費として一七万六五八〇円(通院八一往復についてのタクシー代各回二一八〇円)の損害(合計一〇八万一三七二円)を被った。

三  争点及び当事者の主張

1  原告の後遺障害の内容及び程度

(一) 原告の主張

原告は、両視神経管骨折、両視神経萎縮等の傷害を受けたことにより、視力低下、視野狭窄等の傷害が生じ、現在では左眼が失明し、右眼の視力も〇・〇三(矯正)に低下した。しかも右眼は視野狭窄及び視力低下が更に進行する可能性がある。したがって、現時点における後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表等級(以下「後遺障害等級」という。)第三級一号(一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になったもの)に該当するが、今後、右眼の視野狭窄及び視力低下が更に進行することにより右眼も失明し、後遺障害等級第一級一号(両眼が失明したもの)に該当するに至る蓋然性が極めて高い。

また、原告は、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、頭蓋底骨折、内径動脈海面静脈洞瘻等の傷害を受けたことにより、右前頭葉、左右側頭葉に脳挫傷による変化等が残り、観念連合や思考の統合力、判断力の低下等々の後遺障害がある。この後遺障害は、後遺障害等級第七級四号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当する。原告の神経系統の機能又は精神の障害は、中等度の神経系統の機能又は精神の障害のため、精神身体的な労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの、すなわち、独力では一般平均人の二分の一程度に労働力が低下していると認められる場合に当たることは明らかである。

更に、原告は、左肩鎖関節脱臼、骨盤骨折の傷害を受けたことにより、骨盤変形の後遺障害が残り、しかも左股関節の変形は今後も進行することが予想される。右後遺障害は、後遺障害等級第一二級五号(鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい奇形を残す)に該当する。

以上により、原告の後遺障害は、後遺障害等級第一級に該当する。

(二) 被告らの主張

原告の後遺障害は、一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇三であるから、後遺障害等級第三級一号に該当し、また、骨盤骨の変形障害があるから、同第一二級五号に該当する。しかし、原告は、思考の統合力、判断力の低下など精神機能の低下は認められるとはいえ、事故後復職して就労していること、原告の神経、精神機能の障害が著しいものではなく、自律行動が可能であることなどに照らし、同第七級四号の障害の程度には至っておらず、同第九級一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当すると考えられる。原告の後遺障害がこのように同第三級一号、第九級一〇号、第一二級五号に該当するから、自動車損害賠償保障法施行令二条一項二号ニに基づき併合第二級となる。

2  原告の被った損害(ただし、争いのない部分は前記のとおり。)

(一) 原告の主張

(1) 入院付添費

原告の傷害の程度は極めて重大かつ深刻であり、入院当初は生死の境をさまよう状態であり、その後も引き続き意識不明ないし意識混濁の状態が続いたため、少なくとも事故日から平成八年一月末日までは近親者の付添が不可欠であり、原告の妻子が付添看護を続けた。このため、平成八年一月末日までの七〇日間、一日当たり六五〇〇円合計四五万五〇〇〇円の近親者付添看護費用を要し、原告は同額の損害を被った。

(2) 治療器具及び装具費として九一万八八二一円。

(3) 後遺障害による逸失利益

原告は、後遺障害等級第一級に該当する重大かつ深刻な後遺障害により、労働能力の全てを喪失した。原告は、本件事故前は、北海道大学学務部教務課教務情報システム室の専門員として、<1>教務事務電算化の開発運用等に関する企画、立案等、関係機関との連絡調整、打合せ、出張、諸会議の開催、出席、資料作成、議事録作成、研修、広報資料作成、予算措置に関する作業、<2>スペース・コラボレーション・システム(SCS)の設置、運用等に関する前同様の作業、<3>入試監督等の事務に従事していたが、本件事故後は、会議等の出席(傍聴)、簡易な文書の起案及び事務的な電話の応対しかできなくなったが、たまたま公務員であったために復職が可能となり、減給も免れているが、今後の昇進や昇級等は全く望み得ない。原告の勤務は、周囲の同僚らに様々な負担やしわ寄せを与えており、原告の周囲に対する気兼ね等から、原告が退職に追い込まれる蓋然性も高い。

原告の平成六年度の年収額八七一万八七二三円を基礎収入として、五四歳から就労可能年齢である六七歳までの一三年間の労働能力喪失期間に対応するホフマン係数九・八二一一を乗じて計算すると八五六二万七四五〇円となる。

(4) 慰藉料

原告の入通院慰藉料は、二九五万円が相当である。

また、後遺障害慰藉料は、二七〇〇万円が相当である。

(二) 被告らの主張

原告は、本件事故当時、北海道大学学務部教務課に所属する国家公務員であり、事故後も前職に復帰し、従前と同様国家公務員として就労している。原告の得る給与収入も本件事故によって影響を受けることなく、現在も従前と同様な給与所得を得ており、本件事故による後遺障害の結果、現実に生じた収入減少はないから、損害が発生する特段の事情がない限り、その後遺障害による逸失利益は、存しないというべきである。

3  過失相殺

(一) 原告の主張

原告は、住宅、商店街にある片側三車線で安全地帯の設けられている通称新川通りの交差点に差し掛かり、歩行者用信号機の表示が人の形の記号を有する青色の灯火(以下、単なる青色の灯火を含めて「青色の灯火」という。)であることを確認して横断歩道上の横断を開始したが、安全地帯の手前で歩行者用信号機の表示の青色の灯火が点滅し始め、原告が安全地帯に到達した直後に人の形の記号を有する赤色の灯火(以下、単なる赤色の灯火を含めて「赤色の灯火」という。)に変わった。このとき、安全地帯に隣接する車線(三車線の内側車線)の横断歩道手前に車両が一台停車していた。原告は、安全地帯を越えて更に横断をすべく、停車車両の前方を横断通過した直後に、三車線の中央車線を進行中の被告佐藤運転に係る加害車両が交差点に進入してきて原告に衝突した。このような事故状況によれば、原告の過失割合は二割とするのが相当である。

(二) 被告らの主張

本件事故は、市道新川通り上の交差点で発生した。新川通りは、車道片側幅員一〇・五メートル、片側三車線の道路で、約三メートル幅の中央分離帯が設置された交通量の多い幹線道路である。被告佐藤は、新川通りを南から北方向へ向かって三車線の中央車線を走行していた。被告佐藤は、交差点手前で、前方の信号機の表示が青色の灯火であることを確認し、進行方向道路上には何の障害物も人影もなかったのでそのまま進行した。被告佐藤は、本件の交差点直前まで走行してきた時、突然、三車線の内側車線に右折待機中の停車車両の陰から、赤色の灯火の信号機の表示を無視して原告が車の前に飛び出してきたため、被告佐藤は、予期しない事態に驚き、とっさに急制動をかけたが間に合わず、原告に衝突した。

原告は、横断を開始した時点では対面信号機の表示が青色の灯火であったとはいえ(ただし、被告佐藤の信号機の確認地点を考えると、当初から青色の灯火の点滅あるいは赤色の灯火であるのに横断を開始した疑いがある。)、横断開始直後には青色の灯火の点滅となり、中央分離帯にたどり着く前にすでに赤色灯火となっていたというのであるから、中央分離帯に着いた後にはそこにとどまるべきであった。それにもかかわらず、原告は、一緒に横断をしていた同僚が中央分離帯にとどまり制止したのに、これをすり抜け、一人赤色の灯火を無視して小走りで横断を開始したため、本件事故に遭遇した。本件事故は、夜間の見通しの悪い状況のもと、幅員の広い幹線道路で信号機の赤色の灯火の表示を無視して横断をしようとしたという危険性の高い行為の結果起きたものであって、その原因は横断者である原告の重大な過失にあり、その過失割合は八割を下らないというべきである。

4  弁護士費用

(一) 原告の主張

原告は、本件訴訟追行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用として七〇〇万円を支払うことを約した。

(二) 被告の主張

原告が本件訴訟追行を原告訴訟代理人に委任したことは認め、その余は争う。

理由

一  争点1について

原告が、本件事故により両視神経管骨折、両視神経萎縮等の傷害を受け、これにより、視力低下、視野狭窄等の傷害が生じ、現在では左眼が失明し、右眼の視力も〇・〇三(矯正)に低下し、現時点における後遺障害は、後遺障害等級第三級一号(一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になったもの)に該当することについては当事者間に争いがなく、証拠(甲第三の一、証人小川ユリ子)によれば、原告の右眼については予て視野狭窄及び視力低下が更に進行する可能性があると指摘されていることが認められる。

また、証拠(甲第三の二、証人武良克美、同小川ユリ子)によれば、原告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、頭蓋底骨折、内径動脈海面静脈洞瘻等の傷害を受けたことにより、右前頭葉、左右側頭葉に脳挫傷による変化等が残ったこと、このため、原告には、観念連合や思考の統合力、判断力の低下等々の後遺障害があり、原告が本件事故前にしていた北海道大学学務部教務課教務情報システム室の責任者としての仕事をこなすことができず、同室では、原告を除く四人の職員が原告の分を含めた五人分の仕事を分担して行い現在に至っていることが認められ、これによれば、原告の神経系統の機能又は精神の障害は、中等度の神経系統の機能又は精神の障害のため、精神的身体的な労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの、すなわち、独力では一般平均人の二分の一程度に労働力が低下していると推認することができ、その後遺障害の態様に照らすと、その程度は、後遺障害等級第七級四号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に該当すると認めるのが相当というべきである。被告らは、原告が本件事故後にもとの勤務に復帰したことを捉えて、原告の後遺障害の程度は同第九級程度に止まると主張するが、前記認定のような原告の復帰後の就労内容に照らすと、採用することができない。

さらに、証拠(甲第三の三)によれば、原告は、本件事故により、左肩鎖関節脱臼、骨盤骨折の傷害を受け、これにより、骨盤変形の後遺障害が残ったこと、左股関節の変形は今後も進行することが予想されることが認められる。このような事情をも勘案すると、右後遺障害は、後遺障害等級第一二級五号(鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい奇形を残す)に該当するというべきである。

以上の認定により、原告の後遺障害による損害の計算に当たっては、自動車損害賠償保障法施行令二条一項二号ハに従い、二級繰り上げた後遺障害等級第一級に相当するものとして算定すべきものである。

二  争点2について

1  まず、入院付添費については、証拠(甲第四、証人小川ユリ子)によれば、原告の負った傷害の内容及び程度は重大かつ深刻であり、原告は本件事故から約九日間は昏睡状態で意識障害があったこと、原告の意識が回復したのは本件事故から一八日目であり、意識の戻った当初は周囲の人を認識することができず、話もできなかったこと、原告の家族は、医師から、原告の正常な意識を回復するための治療方法はなく、家族が常時付き添い、語りかけるなどの刺激を与えることが必要であると言われたこと、そこで、原告の妻子が本件事故直後から付添看護をしたことが認められる。したがって、その付添看護費用は本件事故と相当因果関係にある原告の損害と評価することができ、原告の主張するとおり、本件事故日から平成八年一月末日までの七〇日間、一日当たり六五〇〇円合計四五万五〇〇〇円の近親者付添看護費用を損害と認めることができる。

2  次に、治療器具及び装具費については、証拠(枝番号を含め甲第一〇ないし第二四、証人小川ユリ子)によれば、原告は、本件事故により負った傷害のため、これらの器具等を必要とし、その費用として九一万八八二一円を出捐したことが認められるから、同額の損害を被ったものというべきであり、その損害は本件事故と相当因果関係にある損害と考えられる。

3  原告の後遺障害による逸失利益について検討する。

原告は、後遺障害等級第一級の障害を負ったことを理由に、本件事故以後はその労働能力を一〇〇パーセント喪失して本件事故当時得ていた給与所得相当の損害が逸失利益に当たると主張するが、証拠(証人小川ユリ子)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、国家公務員であるところ、本件事故後に復職し、従前と同様の給与を得ており、その重大な後遺障害にもかかわらず、本件事故から約四年を経過した現在に至るまで給与上の不利益を受けていないことが認められ、こうした事情に照らすと、昭和一九年一〇月二五日生(甲第一により認める。)の原告が満六〇歳の定年(証人小川ユリ子により認める。)を迎えるまでの向こう約五年間に、現在の職場での就労ができなくなって、その給与所得を喪失するとは認めることができないし、また、今後給与面でどのような不利益を受けるのかも確知し難いものである。したがって、原告が、定年に達するまでの期間については、本件事故による後遺障害を理由とする逸失利益があると認めることは困難であり、この間に原告が後遺障害をおして勤務を続けることによる様々な苦痛については慰藉料の算定において斟酌するほかはないものと判断する。

原告が定年後、就労可能な満六七歳までの七年間の逸失利益については、後遺障害のため労働能力を一〇〇パーセント喪失しており、再就職はできないと考えられる。そこで、平成七年の賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、新大卒(原告が新大卒であることは証人小川ユリ子により認める。)の男子六〇歳から六四歳までの年収額七七〇万二〇〇〇円及び同六五歳以後の年収額七四六万〇五〇〇円を用いて、原告が本件事故時からの遅延損害金を請求していることに鑑み本件事故時を基準時として中間利息をライプニッツ係数により控除すると、別紙のとおり、その逸失利益は合計二八五〇万〇八九六円となる。

4  慰藉料については、まず、入通院に関しては、その期間及び程度に鑑み二七〇万円、後遺障害については、その内容及び程度に加えて前述の事情をも充分に勘案して三〇〇〇万円をもって相当と判断する。

5  以上の認定に基づき、争いのない損害を含めた総損害(弁護士費用を除く。)は、合計六三六五万六〇八九円となる。

三  争点3について

1  本件事故の経緯について判断する。

証拠(甲第七、証人武良克美、被告佐藤本人)によれば、本件事故の発生した交差点は、片側幅員一〇・五メートルの片側三車線の市道新川通り上にあり、その道路中央に幅員約三メートルの中央分離帯が設けられていること、付近は市街地であり、周囲には原告の勤務していた北海道大学や札幌工業高等学校及び市営桑園北団地があること、原告は、同僚の武良とともに歩いて帰宅途上にあり、その交差点に差し掛かった時には、対面する信号機の表示が青色の灯火であったこと、そこで原告は、武良とともに横断歩道を横断し始めたところ、中央分離帯に達する前に信号が青色の灯火の点滅となったこと、武良は中央分離帯手前付近で信号機の表示を確認したところ既に赤色の灯火であったため、中央分離帯上で立ち止まり、原告もこれに合わせてそこで一旦立ち止まったこと、原告らの進路左方に当たる交差点内の最も中央分離帯寄りの車線上には右折の表示を出して停止線手前で停車している車両があったこと、原告は、中央分離帯で一旦停止したものの、二呼吸ないし三呼吸おいて再び横断歩道を横断し始めたこと、これに気付いた武良が危険を感じて原告を止めようとその肩に手を掛けたが、原告は、これをすり抜け、停車車両の前方を横切り駆け出すようにして斜め前方に進行したところ、折りから、対面信号機の青色の灯火に従い中央の車線を進行してきた被告佐藤の運転する車両にはねとばされたことが認められる。

2  右認定事実によれば、原告は、信号機の表示に従い横断歩道を横断中のところ、中央分離帯に達する手前で既に歩行者用信号機の表示が赤色の灯火になっていたのであるから、深夜で見通しも悪いことでもあり、その横断を一旦中止して改めて歩行者用信号機の表示が青色の灯火となるのを待つか、少なくとも、左方から交差点に進入してくる車両の有無を確認して進行すべきであったにもかかわらず、これを確認することもなく、漫然と横断を続けた結果、本件事故に遭ったものというべきであるから、被害者である原告には、過失があり、その損害の算定に当たってはこれを斟酌すべきものである。他方、被告佐藤は、信号機の青色の灯火に従って交差点に進入しようとしたものであるが、深夜の住宅街において片側三車線の道路を進行中であり、中央には分離帯が設けられ、最も右側の車線には停止線手前に右折のため停車していた車両があったことから判断すると、横断歩道を信号に従い横断を開始し、横断を終える前に歩行者用信号の表示が変わったのに、なお横断を継続しようとする歩行者がその停車車両の脇から飛び出してくることは予想しうるところであったにもかかわらず、その安全を確認することなく、漫然と進行したものであるから、被告佐藤の過失も重大というべきである。このような当事者双方の過失の内容及び程度を勘案すると、原告の被った損害のうち、その二五パーセントは原告の過失に基づくものとして、これを過失相殺として控除するのが相当と判断する。

以上の認定判断によれば、原告の被った損害から二五パーセントを控除した四七七四万二〇六六円が、被告らが賠償すべき原告の損害ということができる。

四  争点4について

原告が原告訴訟代理人を訴訟代理人に選任したことは争いがないところ、上記の認定判断に基づき、原告の被った損害のうち、弁護士費用として本件事故と相当因果関係にある金額は、本件事案に鑑み四八〇万円が相当と判断する。

五  結論

以上によれば、原告の本件請求は、被告ら各自に対し、五二五四万二〇六六円及びこれに対する本件不法行為の日である平成七年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言について同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤陽一)

逸失利益計算

1 満六〇歳から六五歳になるまでの五年間

7,702,000×(9.8986-7.1078)=21,494,741

2 満六五歳から六七歳になるまでの二年間

7,460,500×(10.8377-9.8986)=7,006,155

3 合計 二八五〇万〇八九六円

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